今回の「2022国際ロボット展」(2022年3月9〜12日、東京ビッグサイト)は、初めて「マテハン・ロボットゾーン」や「部品供給装置ゾーン」が設けられるなど、今まで以上に展示対象が広がりました。ちょうどコロナ禍などを受けてロボット業界が変革しつつあるタイミングとも重なり、内容も多岐にわたったという印象です。会場を巡るなかで感じた三つの観点から展示の様子をご紹介します。
各社とも力を入れる協働ロボット
コロナ禍を受けて、安全柵を必要としないために生産ラインにすぐ入れることができ、密を避ける効果もある協働ロボットのニーズが高まっています。一方で、「スピードが遅い」ことへの不満もあり、なかなか導入が広まらないというジレンマもありました。今回の展示では各社とも協働ロボットの新製品を投入するなど品ぞろえを厚くする一方で、難点を克服するための工夫も見られました。
ヤマハ発動機は出資する東京ロボティクスとの共同開発により初の協働ロボットを参考出品していました。狭いところにも回り込める7軸タイプで、通常より速く動く「高速動作モード」を備えることで「遅い」というユーザーの不満に応えようとしていました。また、全軸に新開発の高精度力覚センサーを内蔵。菓子の箱詰めデモでは、手探りでピッキングしてから治具のような道具にワークを当てることでワークの向きを感知することにより、カメラなしでのピッキングをしていました。
ファナックの協働ロボットはCRシリーズ1種類、CRXシリーズ3種類の計4種類の新製品を投入し、ラインアップを一気に拡充させたことを印象的な展示でアピールしていました。可搬重量やアームの長さなどで選択肢を増やし、組み立てからパレタイジング・デパレタイジングまで、幅広い用途に対応可能な体制が整ったことで、一気に販売経路も拡大しようという意気込みがのぞきます。
安川電機もアームの短い協働ロボットを新たに投入(写真右手前)。省スペースで手元の作業に対応できるというニーズに応えるためと説明していました。ユーザーから幅広いニーズが上がってきていることの表れとも言えそうです。
ユーザーの使い勝手がいいように
「ティーチングレス」「AI活用」などをうたい、現場のユーザーの使い勝手を良くしようという工夫も目立ちました。
三菱電機は、音声認識や空間認識、人工知能(AI)、拡張現実(AR)などの技術を組み合わせ、口頭で話しかけるだけでロボットの動きを確認しながら指示できるシステムを展示していました。あらかじめ用途に応じた動きをプログラミングしておき、指示に従って適した動きを選ぶことによって「ティーチングレス」を実現させるなど、いわばインターフェースを整えることによってユーザーの手間を少しでも省こうという工夫と言えそうです。デモ機では、声やタブレットを使って弁当の唐揚げの盛り付けを指示していました。
安川電機は新型自律ロボットの「MOTOMAN NEXTシリーズ(仮称)」を参考出展していました。「ティーチングプレイバック方式からの脱却」をうたい、ジュースパックの箱詰め作業や、シーリングを模したワークの輪郭をなぞる動作を、簡単な指図だけで特別なティーチングをせずに可能にするというシステムです。ロボットを制御するアプリケーションは一括のパッケージで提供し、ロボットビジョンやAI処理、力覚制御などの機能はモジュール化して、ユーザーが選ぶだけで機能するという仕組みです。これもメーカー側がこれまでユーザーなどに任せていた操作の一部を肩代わりしてあらかじめ準備しておくことで、ユーザーの負担を軽くする試みと感じました。
ロボット自動化のためのAIソフトウェアなどを開発するOSAROは、自動梱包機と組み合わせたデモ機を展示していました。OSAROの独自の技術により、事前の登録なしにロボットがさまざまな商品をピッキングし、バーコードをスキャンさせた上で自動梱包機に投入。自動でポリ袋詰めされます。さまざまな大きさや状態の商品に対応するため、吸着パッドのハンドの交換も自動でしていました。ピッキングの際に事前に商品の登録を必要としない「マスターレス」は、やはりユーザー側の負担を軽くする技術の一つと言えるでしょう。
活用の幅広がる遠隔操作
もう一つ目立ったのは遠隔操作を取り入れたシステムです。遠隔操作の一種とも言える「アバターロボット」がカフェの接客に使われるなど、既に生活の中に溶け込みながら実用レベルで社会に広がりつつあります。展示会ではその可能性をさらに拡大させる試みが目につきました。
川田テクノロジーズのブースでは、東京・日本橋の「分身ロボットカフェDAWN Ver.β」で使われている「テレバリスタ」を応用した「テレコンシェル」ロボットが展示されていました。DAWNでは、接客にアバターロボットが使われ、外出が困難な身体障害者や難病患者などがパイロットとして遠隔で操作するシステムで、2021年6月のオープン以来「テレバリスタ」を含め注目を集めています。今回のブースで「コンシェルジュ」役を務めるのがカワダロボティクスのヒト型協働ロボット「NEXTAGE」で、肩に乗っているのがアバターロボットの「OriHime」です。実際にパイロットと言葉を交わすことができ、来場者が遠隔操作ならではの触れ合いを楽しんでいました。遠隔操作技術が社会的に認知され、広く活用されることとなった先駆的な成功事例の一つと言えます。
本田技術研究所のブースでもアバターロボットが出展されていました。ちょうどヒューマノイドロボット「ASIMO」の各地でのデモショーが3月末で終わるというので話題を集めていたタイミングで、ASIMOの開発で培った技術が今後はアバターロボットの開発にも生かされるとのことでした。アバターロボットの難しさは通信遅延等による、人の操縦とロボットの動作のずれです。HondaはAIを使ったサポート技術を導入しており、ロボットは人の意図をくんで、自律的にものを扱います。これらの自律動作生成にはASIMOの研究成果が生かされているそうです。
物流システムを手掛けるオカムラが出品していたのは、自社で開発を進め事業化着手を発表した「PROGRESS ONE(プログレスワン)」です。AI(人工知能)搭載双腕ロボットで自律ピッキングを行いつつ、ロボット単体で商品をつかめなかった場合は、オペレーターが遠隔操作でロボットを動かしてつかむという「ハイブリッド型ソリューション」です。遠隔操作はマウスやゲームコントローラー、データグローブ(両手に装着して手の動きを伝える装置)を使って行います。オペレーターは都市部や住宅地からでも操作が可能なため、郊外にありがちな倉庫などでの人手不足を解消し、新たな雇用を生み出す可能性もあると説明していました。
見た目のインパクトから来場者の注目を集めていたスタートアップ企業・人機一体の汎用人型重機「零式人機」も遠隔操作の一つと言っていいかもしれません。JR西日本や日本信号も開発に関わっている高所重作業用のロボットで、今回は 「零式人機ver.2.0」と銘打った実用レベルの試作機ということでした。
操縦者は高所作業車に取り付けた操縦席からブームの先端に取り付けたロボットを遠隔操作します。VRゴーグルを身につけていて、ロボットの視点から見た光景を見ながら操作することができる仕組みです。まずは鉄道分野で成功事例を作り、それをもとにさまざまなインフラのメンテナンスに活用することを目指しているとのことでした。
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